無電柱化の推進

国土交通省 東北地方整備局 道路部

失われた景観 戦後日本が築いたもの

私はこの頃、自宅周辺を散歩するたびに憂鬱な気分になる。
一番気鬱なのは、蜘蛛の巣のように張りつめ、空を覆う電線である。
小学校の頃、校庭に寝ころぶと青空は大きく広がり、不安や希望をかき立てられた。
その空が今では、電線によって幾つもの区間に切り取られている。
不安も希望も、電線のせいで縮んでしまった。
高い樹木にしても、空に届かんばかりにそびえるというよりは、
電線に絡まりながら窮屈そうにしているように見える。
窓から外を眺めてもそうだ。隣家の立派な欅のすぐ上を横切る電線は、
樹と空とを不細工に切り分けている。
春の花見で満開の桜を眺め、秋の月見で満月を眺めようとしても、
拙宅からは蜘蛛の糸のごとき電線にからめとられたものしか見ることができない。

現在、電線類を地中化し広い空を取り戻すことが、
日常生活において失った別次元の豊かさを回復する事業と目されている。

『失われた景観 戦後日本が築いたもの』
松原 隆一郎 著 PHP新書より

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