第5回コンパクトシティ研究会 基調講演
「公共交通主体の交通体系を目指して―金沢市の交通政策―」
金沢市都市計画課 木谷弘司 課長補佐
(1)はじめに (2)金沢市の概況 (3)金沢市の主要課題 (4)金沢市の交通の現状 金沢市近郊の公共交通の路線網図です。これはバス路線をベースにしたものです。軌道系は、街なかを突き抜けるようにJR北陸線があります。私鉄の北陸鉄道には、浅野川線と石川線の二つのルートがあります。しかし、二つのルートとも都心の中心部まで入り込んでいるのではなく、都心中心部の外縁で止まっています。そして、この旧市街地+α位のエリアで、正規料金のバス運行がされています。この中心部のバス路線網図は、金沢駅と中心商店街の香林坊という場所の二つが、主要な発着拠点になっています。この二つを結ぶルートの部分は、日あたり約2千便が行き来していて、ここを中心に放射状に路線設定がされています。なお金沢市のバス事業者は、北陸鉄道が事実上一社独占です。若干JR西日本のバスも走っていますが、中心部についてはほとんど走っていない状況です。北陸鉄道のバスの乗降客数の変化ですが、昭和42年に市電が廃止され、その際に大きく2千万人ほど増えたのですが、そのピーク時に対して、現在2千3百万人程度と6割くらい減っています。その間バスレーンの導入等いろいろな施策が展開されていますが、大きくはこの減少傾向の歯止めが利かず、今に至っています。 (5)交通の課題と解決に向けた取り組み 二つ目は、自動車社会の急激な進展と依存の増大が、郊外開発と中心市街地空洞化の大きな要因になっていることです。自動車依存とともに公共交通離れが進んでいます。そして、利用者の減少とサービス水準の低下という全体的な悪循環が断ち切れずにいるという問題があります。他の地域の方とお話する時に、「金沢市は石川県警と仲が良いですね」「警察は正直色々な面で壁となっている」といった話を聞きます。その背景としては、戦後人口が急増し、当然自動車の急激な増加がありました。一方、思うように道路整備が進まないという現状で、著しい交通渋滞の発生と慢性化が起こりました。これに対して、道路管理者と県警交通管理者では、一つの共通認識が生まれています。それは道路整備が渋滞の解決に追いつかないということです。そうなると、少しでも効果が期待できることを実行していくしかありません。 では、その実行できることは何かというと、走る車をコントロールすることでした。その当時の取り組みが、今で言うTDMの取り組みです。TDMの取り組みにおいて、「金沢市は先進的にやっていますね」と言われることがあるのですが、正直当時はそのような高尚な考え方はなく、本当に藁をも縋る思いで手がけてきたと思います。この認識は今も続いていまして、様々な交通実験を先進的に行っている現状につながっているかと思います。その次の表ですが、これは金沢市で今まで継続して行われてきたTDM系のものを年表形式でまとめたものです。この考え方の発端は、1965年位に渋滞解消のために「一人乗りマイカー」を規制してはどうかということでした。この話は、議会の反対等で実現することはありませんでした。しかし、それ以降の様々な取り組みにつながってきていると思います。金沢市の交通の考え方として、新金沢市総合交通計画があります。もう一つは金沢都市圏交通円滑化総合計画があります。こちらはハードとソフトを二本柱にしたプログラム形式で示したものです。これは国交省主体で策定した計画ですが、この策定に併せて、金沢都市圏交通円滑化推進連絡協議会をつくりました。金沢市単独ではなく、他の市町村及びその他の機関を含めた連絡会、組織ができたので、今後、都市圏ベースで総合的な施策展開に役立てていきたいと思っています。これはその中の主だった施策です。この円滑化総合計画の中では、交通容量拡大で何%くらい道路容量が増える、そしてTDM系でどのくらい車を減らせるかを試算して、渋滞損失時間額でその当初860億円くらいの損失があったものが、ここにある目標値が達成できれば25%、お金にして220億円位減らすことができる数値目標を設定しております。 ここから金沢市の具体的な取り組みについてです。最初に、バスを活かした公共交通推進政策ということで、バス関係の取り組みをまとめました。バスの政策につきましては、数年来はオムニバスタウンの指定により、その補助金等をフル活用して進めてきました。ちなみに、浜松市に次いで金沢市は2番目の指定です。オムニバスタウン計画では、五年刻みで第一、第二、第三ステップという計画を設定しています。第一ステップはもう済んでいますが、「バスの優しさアップ」、「スピードアップ」、そして「バスによる街づくり」という、大きく3つ区分して13の施策を設定しています。第二ステップは現在ですが、これでは4つの大きな項目を展開しています。なお、オムニバスタウンの補助は、第一ステップ5年間で基本的には終わりでした。その中、本省にバスのICカードの導入についてだけは第二ステップで認めるということで、一部オムニバスタウンの補助システムを利用して導入しております。 最初にコミュニティバスの導入と活用を紹介します。 次に、このふらっとバスの運営経費についてです。ふらっとバスは、フォルクスワーゲンのTFという輸入していない車の前の部分だけを切り取って、クセニッツという工房で後部座席をつくっています。要は輸入改造車です。非常に高くて、ディーゼルで2500万円、CNGで2900万円位の値段がします。CNGで考えると、普通、街なかで走っている大型バスが一台1500万円位なので、2台近く買える値段です。さらに、車検、保守点検で年間160万円円、修繕費で300万円近くかかってしまうのが今の状況です。福祉的な目的からバリアフリー製造、フルフラットであるということに対して非常に重視していましたので、結果的に、当時この輸入車しか選択肢がなかったことが、非常に重い経費負担につながっています。国産のメーカーが全然つくってくれなかったのですが、日野自動車で新しく純国産のバスがつくられることで、来年度以降、8年ぐらい経過している車体もありますので、順次入れ替えを進めていきたいと思っています。ちなみにこのバスで、値段は1500万円位、年間の保守点検費として18万円位で、前の一割です。修繕費についても60万円から70万円位で、約4分の1以下で済むので、実際に4年間位の運行をすれば、この修繕費等の金額の差だけでさらに1台買えてしまいます。 次に、通勤パークアンドライドについてです。「K Park」と呼んでいるものが運行していまして、一般のパークアンドライドと同じ図式です。「K Park」のKは金沢です。特徴は、郊外の駐車場の部分を郊外のショッピングセンターから無料で借りていることです。利用者は登録制で、登録した利用者はお店のショッピングセンターの商品券の購入が義務付けられています。買った商品券は自分で使えるので、実質的にはこの駐車場の利用は無料です。駐車場を提供している店舗につきましては、この商品券を介して買い物行動が固定される。つまり、顧客の確保につながるというメリットがあるので、駐車場の提供に応じています。 もう一つの特徴は、このバスの乗車場所は、既存の公共交通の主要ルート沿いにあるショッピングセンターと交渉して駐車場を設定していることです。その結果として、駐車場の整備費や専用シャトルバスの運行費が要らず、非常に少ない経費で実施が可能であることが最大のメリットと思います。また、行政が駐車場を用意して、恒常的に運営するという本格的な仕組みに入る前に、固定客を確保することとパークアンドライドの仕組みの周知を図ることに関しては、安心できる一つの仕組みになっていると思っています。この「K Park」の利用者のメリットとしては、北陸鉄道と話をして、通常の通勤定期に対して割引率を一割アップしています。もう一つは、街なかに入るまでの経路に、バスレーンや特急バスをセットして、平均で約9分の時間短縮を図っています。なお、この特急バス、快速バスについては市内の11路線で導入しています。中心部に入ってくる放射環状の、主要ルートにバス専用レーンをセットしています。また、今現在5箇所の駐車場をセットしており、総駐車台数は169台、現在の登録者は136名ですが、この程度の自動車が減ったとしても、渋滞対策効果があるかは分からないといったところが正直な思いです。しかし、一つずつ積み上げていくことで機能していくと思っています。このバスレーンは、現在、朝、夕、両方運行が5区間4.05km、朝のみが16区間19.72kmで、全体で約25qの道路にバスレーンがセットされている状況です。その次に、もう一段階進んで走行性を高めるということで、路線バス及び緊急車両を優先するPTPSを、警察の協力により進めてきました。平成15年から17年の間で約10.3qの整備を終えています。以前、交通実験で効果の計測をしたところ、金沢駅西側の2qの区間で、導入前が6分1秒であったものが、27秒と約7%の時間短縮につながったという結果が出ています。 「K Park」の利用の課題をまとめてみます。 次に、民間施設駐車場の活用に関して、ショッピングセンターの駐車場であるため、当然、土日祝日は除外で、貸してもらえず、土日祝日に仕事がある方は、利用者として除外するしかありません。もう一つは、倒産、店舗撤退により駐車場がなくなってしまうような運営の不確実性があります。安い分だけリスクがあるということです。来年度、パークアンドライド駐車場の配置方針を策定予定としています。それと併せて、市が現在持っている所有地を中心として、借りるのではない恒常的なパークアンドライドシステムに着手する予定です。 次に、快適さです。オムニバスの指定をフル活用し、ノンステップバスを導入してきました。平成16年度までで94台、北陸鉄道の路線で3割弱のバスが更新されています。バスの一番のネックは、定時性がないことです。昭和59年からバスの接近表示システムを入れてきました。平成15年度までに263箇所、バス停数の15%に整備が進められています。また、これらと併せて、街なみ環境の向上を目指しバス停の改良も進めており、現在172箇所に整備されています。このバスの接近表示のデータを活用し、「バスクール」というシステムがあります。これは、携帯やパソコンを利用してバスの運行情報を提供するシステムです。定刻の発車時刻は誰でも見ることができますが、会員登録しますと、指定した路線で「何分にバスが来ます」、「もうすぐ来ますよ」、「今どこを走っています」といったお知らせがメールで送られてきます。現在62線で、ほぼ市内全域の路線で対応されています。これは、国道の渋滞解消の目的で金沢河川国道事務所の直営で現在運営をしています。 次に、多様な料金システムです。70才以上の高齢者の方に、フリーパス、シルバー定期。また、通勤定期で土日に家族の方が100円割引される定期も導入してきました。また、平成16年度にICカードを導入しました。このカードは非接触的で、500円のデポジットでカードとなります。例えば1,000円前払いで入れると、1,100円をバス料金として使えます。また、30分以内の乗り継ぎであれば、乗り継いだバス料金から30円乗り継ぎ割引されるシステムです。 次に、利用者意識の向上ですが、時差出勤、マイカー出勤の自粛など、様々ものを継続して広報活動を中心に展開してきました。ただこれは、なかなか効果や実績が上がらないことが正直なところです。しかし、長い目で見て、諦めず今後も地道な取り組みを継続していくしかないと思っています。 |
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