第4回コンパクトシティ研究会 基調講演

「住み替え実態から見えてきた新しい『まちなか居住』のあり方」
  早稲田大学 中村悟 客員研究員

中村でございます。どうぞよろしくお願い致します。
『住み替え実態から見えてきた新しい「まちなか居住」のあり方』ということで、住み替え実態を鶴岡市などのご協力を頂きまして研究をしてきたものです。はじめに、住み替えのパターンには、どのようなものがあるのかを少しお話をさせて頂きたいと思います。先ほどマンション供給の分布のお話がありましたけれども、次にマンション居住者の住み替えパターンを少し調査したものがありますので、それで少しお話をさせて頂いて、最後に城下町トラストという空き家を活用したまちなか居住を、どのような形でつくっていくのかを少し提案的にお話しさせて頂きたいと思います。

まず、『地方都市中心市街地の住み替え実態』ということで、鶴岡市と福島市、それから香川県にある善通寺市の3つの市を比べてみて頂ければと思います。これは住民基本台帳のデータを基本に、昭和63年から平成12年までの履歴を調査しています。
転入について、まずタイプを家族タイプと単身タイプに分類して、転入してくる人数を市全体と中心市街地に分けて整理しています。中心市街地は中心市街地活性化基本計画のエリアです。これは善通寺市の場合は特殊な要因がありますので、鶴岡市と福島市の方で見て頂ければと思います。中心市街地は他の場所に比べて魅力がないと言われてきましたが、この転入の比率を見ると、中心市街地は一概にそうとは言えなくて、人口の受け皿として機能していることが分かります。
次の転出ですが、家族タイプ、単身タイプのそれぞれ人口比率とほぼ同じくらいとなっています。鶴岡市と福島市の場合、人口比率に比べて若干高い比率で転出していることが分かっています。
転入転出を年齢別に見てみますと、まず鶴岡市の単身の転入において市全体と中心市街地を比較しますと、ほとんど同じような波形を描き、転入転出ともに同様な傾向にあります。
転入の特徴としては、20代の転入が非常に多く、家族タイプで、小さな子どもを抱えた子育て世代ということが伺えます。福島市もほぼ同じような状況を描いています。単身の若い世代と、子育て中の家族タイプ、大きくそのふたつの類型がここから読みとれます。
転出の特徴としては、鶴岡市の場合、20〜24歳の比率が高くなっていますが、転入と違う点は、18〜19歳の比率、つまり大学進学に伴って単身で出て行くというスタイルが大きく出てくるのと、同じように子育てタイプというのが大きな類型として出てくるだろうということが伺えます。福島市もほぼ同じような状況ですが、少し違う点として、大学の進学に伴って単身で出て行くことが非常に小さいということがあります。

次に転出する人たちがどのくらい鶴岡市に住んでいたのかを、年齢別にみますと、先ほどの子育てをしている世代の世帯主だろうと考えられる30〜40代前半の人たちは、居住年数が5年以下という短いサイクルで転出をしているとことが分かります。福島市の場合は若干年齢層が上がっていまして、40〜50代のところにそのような波があります。単身については、先ほど申しました18〜19歳という大学進学の単身で出て行く人は、市内生まれの人たちです。産まれ育った人たちが単身で出て行くことが、鶴岡市のタイプとしてあります。福島市もほぼ共通していますが、若干その比率は下がっています。もうひとつ高齢単身については、市内生まれは若干少なくはなりますが、10年以上住んでいる、つまり長年住んでいた方が単身高齢で出て行くことが、福島市も鶴岡市も同じ類型であるということが分かると思います。

次に転居についてですが、中心市街地から中心市街地、中心市街地から郊外部を数字で示したもので、家族タイプ、単身タイプそれぞれ中心から郊外、または近郊部へ出て行き、人口減少が起きていることが分かります。どの町丁目からどの町丁目に転居をしているのかを比率で出して、その比率をクラスター分析にかけると、鶴岡市の場合、(福島も同じような結果が出ているのですが)出てきた町丁目のクラスターを全て色分けしたものがこれです。家族タイプと単身タイプでほぼ同じで、単身タイプは若干まとまりにならないクラスターが出てくるのですが、家族タイプを見て頂ければ分かると思うのですが、全部で6つのクラスターに分かれています。この少し黄緑色っぽいところが市役所があるエリアで、居住人口が少ないところです。そういうエリアと、若干周りに形成されてきた、中心市街地ではないが、古くからの近郊市街地がひとつのセットになってクラスターをつくっていることが分かります。つまり中心市街地の居住をどう捉えるかということよりは、中心市街地とその縁辺、つまり周りに形成されている住宅市街地とどのような関係を持って住み替えが行われているかを考えた上で、供給などを考えていかなければならないということが分かってきたところです。

次に、転入・転出のパターンを少し見ていきたいと思うのですが、転入転出は、大きく3つのパターンになります。1つ目は入ってきてそのまま居続ける定着型と、2つ目は入ってすぐ出て行ってしまう流動型と、3つ目が市内にいた人が出て行ってしまう流出型との3つです。

定着型の典型タイプは、中心市街地にいったん入ってきて、郊外に出て行くというパターンが、この定着型の中では非常に大きい比率を占めます。だいたい入って来るタイミングから、転居をするまでのタイミングを年数で見ますと5年が8割くらいを占めます。

流動型は、全体の転入転出の中で半分くらいを占めます。非常に広域的に住み替えをしている人たちで中心市街地が受け皿となっているとことが分かります。その人達も転入転出間の年数は、だいたい5年で8割くらいとなっています。

流出型は、先ほどから申していましたが、若年転出が大きく占めます。それは大学入学や就職で、18〜19歳の単身が出て行くパターンです。それと、子世代と同居するという動機で、高齢者が転出していく2つが典型的なパターンとして出てきます。

中心市街地から近郊・郊外部への転居が50%、近郊・郊外部から中心市街地の転居が20%で、この差が中心市街地の一番大きな人口減の要因になっていることが分かります。

転入転出の動機づけは、先ほど申し上げましたように、中心市街地から単身で大学等々に出ていくということで、世帯規模が若干縮小するという現象があって、その一部はUターンしています。鶴岡市の場合は、転入のうち、実家に単身で戻って来る人の比率というのが20%くらいです。それで、20%のUターンは、一見、非常に喜ばしいことに思えるのですが、結構曲者でして、Uターンして若い人が家に戻ると、いくつかの行動が世帯に起こります。
ひとつは、住んでいる実家ごと郊外に出て行くことです。つまり世帯人数が増えたことによって大きな住宅を求める動き出てくるということです。
次にUターンを含めた子どもが中心市街地で結婚をし、しばらく住んだ後にその世帯が郊外に出て行くというスタイルがひとつあります。もうひとつが、子どもが結婚を機に中心市街地の実家を出て行って、郊外に新居を構えるというスタイルです。

次に福島市の世帯形態の変遷タイプを、中心市街地に住み続けている人たちにヒアリングしたものです。子どもがまだ小さくて同居をしている世帯が26、子どもがもう社会人になっていて別生計の世帯が28となっています、この28世帯で、子のうち最低一人はまだ一緒に住んでいる世帯と、全ての子どもが親と別居している世帯に分けられます。前者は11世帯で、後者は17世帯です。最低一人は一緒に住んでいる場合、他の子どもはたいがい遠くに住んでいます。逆に誰も一緒に住んでいない場合は、結構近いところに住んでいるという人たちが増えます。つまり、誰かが一緒に同居してしまうと、近くに住まなければならないという動機づけが薄れてしまって、他の子どもたちが遠くに出て行く。だけど誰も一緒に住まないと、近居をするという動機づけが働いて比較的近いところに住んでいる結果が出ています。
まちなか近居を考える場合、同居と近居というのは、他の世帯分離を考えるときの基礎的な分かれ道をつくるということが言えると思います。

次は高崎市の方で少し調査した『マンション居住者の住み替えパターン』を紹介したいと思います。実際にマンションに住民票を移されている方々を対象に調査をしたものですが、中心市街地に供給されているマンションの6割以上が市外から直接に入ってくる人たちです。つまり、中心市街地にマンションが供給されることによって、郊外部から中心市街地に移り住んで来るという感覚ではなくて、市外から中心市街地のマンションにポンと入ってくる、そういう比率が高いということが分かります。
また、実際に供給されたマンションに入ってから出て行ってしまっている方々がいます。その方々を見ると、市外から入ってきて市外に出て行く受け皿としてマンションが使われています。

次に中心市街地のストックがどうなっているのかに焦点を当てて、『地方都市における空き家発生のメカニズム』ということで空き家を見ていきたいと思います。鶴岡市の中心市街地において、赤い部分が平成10年に、緑の部分が平成15年に空き家になったところです。このような形で空き家は増えてきている実態です。
敷地規模が小さく、基盤状況も悪いようなところが集中的に空き家になるのであろうと想定していましたが、実際はそうではなくて、前面道路もきちんと整備されているし、敷地の規模も結構大きいとような、条件的に良いものも結構な量で空き家になっていることが明らかになっています。敷地規模が小さい方が基盤条件よりも空き家になりやすく、敷地の小さい空き家が結構多いことが分かります。

次にヒアリング調査で所有者に空き家になるまでの経緯を聞いた調査です。空き家になる直前に住んでいた人が借家人なのか、所有者なのかということです。
空き家になる直前に住んでいた方が高齢の単身だった場合と、高齢の夫婦だった場合、更に高齢を除く家族世帯、そして単身世帯という分け方にしてみました。そうすると、高齢単身で住んでいた所有者が死亡したり、転出したりするというという形で空き家になるというパターンと借家又は所有の家族世帯が転出をすることによって空き家になってしまうパターンという大きなふたつの類型があるとことが分かります。
この高齢単身の転出をした場合、どのような理由で転出をしたのかというと、子どもと同居するためというのが3件、施設に入居するためというのが2件あります。
家族世帯による空き家は100u以下の敷地面積の場所に集中しています。つまり、家族タイプの場合は、敷地面積が小さく、増築ができないなど、家族の暮らしに合わなくなって転出をしている。それに対して高齢者が施設入居や転出転居、死亡により空き家となる場合は、小さいものから大きいものまで存在していて、条件のいいものでも空き家になっている大きな要因です。
これは平成10年に確認された空き家から、平成15年の時点でどのように利用されているかを調査すると、半分以上は空き家のままでした。再入居や新築したのは、だいたい15〜20%くらいです。新築や再入居していた敷地条件を見みますと、非常に大きい敷地、または基盤条件のいいものが多いことが分かります。若干基盤条件が良ければ敷地の規模にかかわらず、駐車場となるという特徴が出てきます。倉庫や空地はなかなか使いようがない小さな敷地であったり、何に使うべきか分からなくて留保していたりするものがあります。
住んでいた人が転居して空き家となって、新しい人が購入したのですが、購入したまま空き家になっているタイプが結構あります。つまり自分の子どもが将来Uターンしてきたときのために、土地を資産固有のために買う人たちが空き家をつくっている要因であります。もうひとつは、ずっと借家として活用していたのですが、借家人が出て行ったあと、新しい借家人が見つからず、空き家になっているというタイプがあります。これは所有者が高齢化している場合が多くて、古い借家に手を入れること対してモチベーションがなく、借りてくれたらいいという感じで、取り壊しもしないため、環境的に悪い空き家が、借家相続というかたちで残ります。

次の実家相続というのは、自分が一回住んだことがあるというものです。自分の親などが死んだことによって相続はしたけど、自分は既に家を出ているから、相続した家は余分な家となる。ただこれは自分が一回住み、親が住んでいたということで、なかなか売りたがらないという特徴があるため、空き家のまま残ってしまいます。

次に、所有者転居というのは、転居してもそのまま家を所有し続けることによって空き家が生じるというものです。この空き家はマンション供給と少し絡んでいまして、マンションが供給されるとそちらに転居するため、もともと住んでいた一戸建が空き家となって残り、週末だけそちらに帰って風を入れているといった空き家が2件あり高齢のマンション居住者の中に見られます。

今申しましたようなパターンで、比率を設定してシミュレーションをしてみました。これが現況です。「居住者なし」が黒くなっているところです。現在既に空き家が見られます。シミュレーションですので、これがその通りというわけではないのですが、20年後にはこのエリアの7割くらいが空き家になるという結果が出ました。

そうなると空き家をどのようにストックとして活用するのかが、まちなか居住を考える上では、非常に重要になってくるため、循環するストックのようなシステムを考えていかなくてはならないだろうとここで提案しています。
小規模な中心市街地に適したグループホームやコーポラティブなどの共同住宅にまず入居するタイプ。これに入居すると空き家が出てきます。空き家の解体補助や空き家を相続して子世帯が住むという場合と住み替えをして購入するという場合だけに頼っていたわけですが、自分たちの生活拠点そのものは都会にあるが、ふるさとで行ったり来たりしながら暮らすというSターン住宅のようなニーズが結構あることが鶴岡市の場合分かってきたので、そのための住宅として使う。またはそのような暮らしをしている人たちが、都会の生活からリタイヤし、Uターンしたいというニーズもあるようです。そのUターンするための一時の借り受けとして賃貸整備をしておき、一時その借り受けをしたような人たちが、新たに整備されたものに移り住んでいくようなスタイルもあるだろうと。トータルで考えて、空き家を利用し、いろんな住まい方を実現することによって、ストックの循環ができてくるのではないかを考えています。例えばグループホームと合わせて、小規模多機能みたいな施設として活用するというのもひとつの方策としてあると思います。

実際に、鶴岡市で今年の1月からSターン住宅を始め、皓鶴亭が実際にオープンしました。今モニターで既に問い合わせもいくつか来ています。 それでは、以上で終わりにしたいと思います。
ありがとうございました。

 

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