「地方都市の土地利用規制・誘導について」(基調講演)
  中出文平(長岡技術科学大学教授)

写真:中出文平氏長岡技術科学大学の中出でございます。 では最初に、土地利用の実態についてお話しさせて頂きます。 まず、線引き都市計画区域外縁部における土地利用規制と開発動向についてです。線引き都市と、非線引き、あるいは都市計画区域をもたない都市との境界部分の問題をご紹介したいと思います。これは市町村合併と都市計画を考える際に、非常に大きく関わる話であると思います。
都市計画区域には線引きと非線引きがあり、一般的には市街化区域あるいは市街化区域に相当する用途地域を避けたところに、農業側が農業振興地域をかけます。その農業振興地域の中に、農業側が手厚く守る農用地区域(青地)と、その他に開発規制が緩い地域(白地)があります。しかし、市街化区域もしくは市街化調整区域を計画的にコントロールしようとしても、(開発圧力が掛かった場合)その外側の規制の緩い地域から開発が進みます。

福井市(図1)は、市自体が2つの都市計画区域(線引きと非線引き)を持っているという変わった都市です。線引き都市計画区域は1市2町で構成されていて、その北側には丸岡町や福井空港のある春江町、南側には鯖江市があり、そこを北陸本線や国道8号線が通っている南北方向にリニアな構造をしています。線引き都市計画区域に未線引きの都市、計画区域が隣接している典型的な例です。ここでは、線引き内では開発はほとんど行われず、その周辺や国道8号沿いの便利なところを中心に開発が進んでいるという実態があります。

図:福井市
図1:福井市

新潟市の北側に位置する新発田市では、1200万円で家が買えるという投げ込み広告があります。地方都市といっても、普通は2500〜6000万円くらいです。1200万円で150〜200haくらいの住宅が買えるとなれば、一般の勤労者がこれに飛びつかないわけがないですね。新発田市(図2)は新潟の広域都市計画区域の一端を担っていて、白新線と羽越本線が合流した付近に新発田駅が中心となっています。それから国道7号バイパスにより市街化区域が区切られており、都市計画区域が加治川という川で区切られています。つまり新発田市では、都市計画区域外と市街化区域、市街化調整区域が極めて近接しています。特に近いところは、市街化区域からわずか数キロのところに、都市計画区域外があります。そこに住宅が立地しています。国道7号や隣の村に加治川駅という鉄道駅があり、通勤に至便な土地です。
国道7号沿いの水田にかけられていた農振白地に対して農振除外が行われていたのですが、農振除外されている量は思ったほど多くはなく、ここは農用地地区域の設定が少なかったことが分かりました。つまり都市計画側は、加治川より北側は都市化しないだろうという想定で都市計画区域を区切り、一方で農政側は、国道7号が通れば、沿道は当然宅地化、市街化するだろうという想定で農振白地を大きく設定したという意思疎通を欠いていた事実に突き当たりました。
そもそも北陸地方は、地方整備局が新潟に、農政局が金沢にあるため、非常に意思の疎通が悪い状態です。ここは農用地区域であるのに、ほ場整備を最初から行っていませんでした。つまり、農業側がいずれ農振除外するだろうからほ場整備をしないと言っている地域であるため、開発が進むわけです。実際農地転用された面積をもともとの農地面積で除してみると、先ほどの地域は15%以上も農地転用されていました。それは農振除外したところではなく、もともと農用地区域であったところで農地転用が行われ、農用地区域内の農地転用の合計は、実は農振除外の合計よりもかなり多く、白地の設定が極めて甘かったことが分かりました。
図2:新発田市と加治川村
図2:新発田市と加治川村

これ(図3)は石川県の津幡町です。津幡町は非線引き都市計画区域で、南側には金沢市の市街化調整区域があります。津幡町では、当然金沢市に向けの住宅団地が提供されています。金沢市は、集落部分を除いてほとんど全部に農振農用地がかかっていて、かつ市街化調整区域のため、開発許可の抜け道を使わなくては開発ができません。
一方、津幡町には、昭和59年まで用途地域がかかっていなかった地域で、大量の開発が行われてしまい、石川県は慌てて用途地域を指定しました。しかし、近年も、開発が用途地域外で行われています。要するに、用途地域と農振農用地の間の幹線道路沿いに一筆農振白地ができるため、今も開発が行われており、今後も進行することが目に見えています。かつ優良農地が農用地区域から外れて、ドミノ式に開発が広がっていくことが予想されます。都市計画側と農政側の見解が相違していて、過大な緩規制地域が出現しています。特に農用地区域が不整合であるという問題が出てくることが分かります。市街化区域と緩規制地域が近接している場合、特に幹線道路網が確立すると開発圧力が幹線道路の緩規制地域にどんどん移っていくことが分かります。用途地域指定だけで土地利用を誘導するには限界があり、結局、用途地域周辺の緩規制地域に開発が及んでいくことになります。
私は、区域区分そのものが最善の制度だとは思っていませんが、このようなことが起きますので、まだ区域区分をした方がいいという考えを持っています。
では、区域区分をしたところで計画的な土地利用は担保できるのかというと、それができないのは皆さんご存じのとおりです。
図3:津幡町
図3:津幡町

これは長岡市(図4)です。信濃川が流れていて、橋がどれも1km幅で架けられています。人口15万以上の都市で、川幅1kmで市街地が分断されているのは、日本でも珍しいそうです。ここは長生橋という昔からある橋で、これは昭和62年に架けられた橋、これは昭和50年代の後半に架けられた橋なのですが、昭和63年までこの辺は全く農村地帯のままでした。当時は市街化調整区域だったのですね。昭和62年に橋が架かかってから、そのあと平成4年に道路が貫通します。ここまでが平成3年の暮れに市街化区域編入されたところです。そうすると、平成4年の夏にはここに地元の比較的大きなのデベロッパーが一帯的に開発をします。それ以外に続々と開発が起きるのですが、その後ここを平成12年に市街化区域編入にします。そうするとここも当然開発が進みました。平成10年ではまだ緑でしたが、この辺一帯は、市街化調整区域の開発許可で建てられたところです。
図4:長岡市
図4:長岡市

新潟県の場合、市街化調整区域における開発の流れは、都市計画法第29条で許可が必要か、そのあと都市計画法第34条に合致するか、開発行為に該当しなくても都市計画法第43条で許可申請ができるというように、大雑把に開発許可と既存宅地の制度を使うものと、形態の変更のないものは建築許可だけで通るものと、公共による計画通知で済むものに分けられ、最終的に建物を立てる場合、建築確認申請となるというのが新潟県の流れとなっています。長岡市は特定行政庁ではありますが、開発審査会を持てませんので、県がこれまで管理してきました。それで平成14年以降、開発審査会は持てないけど開発許可申請は受けています。長岡市は開発許可、建築確認申請だけのもの、既存宅地、建築許可だけのもの、公共が開発する計画通知と、これらが別々に開発が進んでいるという実態が分かってきています。

これは都市計画法第34条1号の開発事例で、都市計画法第34条1号は地元住民の利便に供するという題目で開発が行われていますが、本来1号で認めない方がいいようなものがたくさんあります。
都市計画法第34条10号は、市街地周辺において市街化を促進する恐れのないものです。
これが既存宅地の認定の受けられる集落の範囲で、こちら側が知事指定地(大規模指定集落)と重なっている範囲なので、比較的規制が緩くて、いろいろなものが建ちます。これは国道8号沿いで、都市計画法第34条8号で沿道利用として、申請すればほぼ通る状況です。
何が問題かというと、既存宅地の場合は用途の規制がかからないので、工場と住宅がほぼ近接して建てられている。北側にある開発許可と南側の既存宅地の整合が全く取れていません。この既存宅地は、南側にある市街化区域内の開発とも隣接しているという、訳の分からない状況が随所に見られます。(図5)

図5:既存宅地

また、公共の開発は許可が不要ということで、自衛隊の施設、県の施設、県営住宅等が計画通知だけで建てられています。市街化区域の隙間で、計画通知により建てられているわけです。公共だからまともなことするだろうというのは大間違いで、交通負荷等ほとんど考えずに建てています。これはひどいということで、その後昭和56年頃に市街化区域に編入しましたが、最初から市街化区域に入れておけば、もう少し違ったかたちの開発が行なわれていたのではと思います。これまでの研究で計画通知まで把握している場合は少ないのですが、計画通知というのも非常に大きい問題があります。特に一番如実なのは、小学校や中学校、高校、市役所や図書館を平気で調整区域に建てられていることが多いということですが、長岡市ではそこまではありませんでした。

これは複合開発の事例です。
長岡技術大学が島状に市街化区域に指定されていて、その周りは全く建てられないはずですが、国道404号というバイパスが通りました。ここにバイパスが通ったため、その後都市計画法第34条要件、あるいは都市計画法第43条、あるいはそれ以外の単純な建築許可申請だけも含めて、たくさんの建物が建っています。ここの沿道だけを見ると、市街化調整区域とは思えません。この道路に対して、片方はお金をかけてほ場整備をしていて農用地区域になっているのですが、反対側は集落の意向もあって、農用地区域区域に指定していなかったので、その集落の人たちが順番に開発していく土地を提供できるという構造的な欠陥がありました。つまり調整区域では、実際に多くの開発がなんとかすれば許可される状況にあります。当然農用地区域から外してもらうという手続きは一方ではあります。

これらは長岡市の状況で、実際は上越市や新潟市、新潟県の他の3市もほぼ同じような開発審査の手続をとっています。開発許可制度の不備、それから法改正で何回も許可申請が緩和されています。特に既存宅地は緩和されていますから、これらの開発が行われてしまいます。それから市街化区域を拡大したことで、既存宅地の認定を受けられる範囲が広がってきていること。新潟県の場合は、1km以内の距離にある集落で、50m以内の連担であればいいという要件なので。実は実際には市街化区域の端から5km以上離れたところでも、連担要件だけで既存宅地の認定が受けられています。それから大規模集落の指定を受けるとより開発が進む等、市街化調整区域の開発にとても影響を与えています。様々な要因があって、結局市街化調整区域を開発させないためには農業側に農用地区域をきちんとかけてもらって、農振除外を絶対させないということしか規制できないのではないかと思います。特に都市計画法第34条1号都市計画法第34条8号都市計画法第34条10号のロによる開発が多いと難しいです。都市計画法第34条10号のロについては、内容を詳細に詰めると、知事指定地がネックになっているということが分かってきます。


次に知事指定地の運用実態についてです。

知事指定地というのは、指定既存集落、流通業務地区、産業振興地域というこの3つを知事が指定できるということになっていて、下の2つは比較的計画的ですが、1番上の指定既存集落は、3つとも開発要件を緩和しているという問題点はありますが、指定既存集落の場合は何が建つか分からないという問題点があります。
都市計画法第34条の中でも、都市計画法第34条10号のロの部分の知事指定地による開発は、もうひとつ別の流れで許可がされていて、全体の開発の約80%が知事指定地による開発になっていることが、長岡市の場合は分かりました。
知事指定地は一定の距離以上離れていないと指定がされません。才津という集落があるのですが、才津は市街化区域に近いので、知事指定地を受けていないところです。または規模要件で指定されないところもあります。昭和62年、平成4年、平成10年と徐々に指定ヶ所が増えていて、現在15集落が指定されています。問題点は、調整区域内の二重線引きになっているということです。都市計画法第34条10号のロについては、開発審査会の基準で定型的なものについては、進めていく仕掛けになっていて、特に一部の大きなものが県によっては知事指定地の開発が多くなっています。そのようなものを今回の2000年の法改正では都市計画法第34条8号の4に移行しろということになっていますが、知事指定地そのものは制度的に生き残るような仕組みになっているみたいです。

これは都道府県と政令市、それから中核市(2002年現在)の全部の自治体にアンケートをとらせていただいて、指定既存集落をそもそも指定しているかと、都市計画法第34条8号の4に移行するつもりはあるかをアンケートにかけました。それから指定既存集落を指定できるの自治体は、これら以外に特例市が指定できるのですが、特例市が指定できるようになったのはここ数年なので、あまり実績がないだろうということで、94自治体を対象にして、四国の一番南の県以外は答えてくれましたので、ほぼ全体像が掴めたと思います。その結果、ほぼ全体の3分の2くらいが知事指定地として指定既存集落を指定していることが分かりました。ただその運用の仕方は新潟県のように区域を示しているものと、福島県のように仮置き線で区域を示していて、その縁辺部ならば場合によっては許可するとしている。それから岡山県は文言指定で、文言と合致していれば許可されるというように、いろいろな運用事例があるらしいということが分かっています。
その中で、指定既存集落を都市計画法第34条8号の4に移行する気があるのか無いのかを見ると、一昨年の暮れの段階ですが、施行済が18、考えているのが23、未定や、未定というのはその気がないというのも含めてですが、既に制度の合理化がされているからいいとか、上位計画の策定を待って指定するというところが半分であると。ただ指定したというところについては、衰退の著しい集落を対象とするということで、ある種の二重線引き みたいなことをやはり考えているということのようです。これは指定既存集落を指定しているところの31自治体が都市計画法第34条8号の4を施行して、開発審査会基準の意向で進める考えをもっているようです。その都市計画法第34条というのは、指定既存集落の基準をそのまま都市計画法第34条8号の4に移行するところと、都市計画法第34条8号の4の制度に移行するけど都市計画法第34条10号のロの基準もそのまま残していくという、どちらからでも使えるかたちのところがあります。一番スマートなのは兵庫県の例で、市町村の土地利用計画と連動させて、その段階で指定既存集落の制度は廃止して、都市計画法第34条8号の4にすると言っているということが分かってきました。この都市計画法第34条については、まだ都道府県レベルでも逡巡しているところがたくさんあるようです。

長岡市では指定既存集落と、既存宅地の認定が受けられる集落と、それが重複しているところと、3通りあります。遠い集落は指定既存集落だけです。市街化区域にすごく近い集落は既存宅地だけです。このようなところは、両方の指定が受けられているところがあります。そうすると、指定既存集落の指定というのは、昭和62年以降、数段階に分かれているのですが、例えば長岡技術科学大学の近くの集落は、連担要件でここまで全部既存宅地で、指定既存集落はここで、既存集落の指定を受けた後に、ここはすごい開発が多くなっていることが分かりました。ここは指定既存集落を受けなければ、既存宅地の許可の要件くらいの開発しかできないのに、それ以外の開発がものすごく大量に起きているということが見て取れます。ここは指定既存集落のみ、ここは既存宅地の認定の受けられる範囲の集落しか持っていない、ここは両方とも持っているということです。要するに両方持っているところは基準がものすごく甘くなっているのです。既存宅地の制度を使ってもいいし、指定既存集落の制度を使ってもいいということです。
都市計画法第34条10号のロの内容が全部分かるのが6年分の資料しかなかったので、その6年間に長岡市内で起きた全ての開発の位置をプロットしてみたところ、開発許可については全部で156件あったうちの指定既存集落内で70件ありました。そのうち指定既存集落でなければ許可が受けられないものが43件でした。要するに指定既存集落に指定されることで、今までは許可できなかった開発が許可できるようになったということで、つまり抜け道となる制度がどんどん増えているということです。

 

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