“納豆汁は、やはり最上地方の冬の御馳走である。冬が深まった厳寒の節や、ごうごうと地吹雪が雪原を荒狂う夜などは、特に良い。第一、体が内側から暖かくなってくる。雪国においては、暖は第一の御馳走である。
際立って寒くなってくると、最上の人々はすぐに、「今晩は納豆汁。」と声に出す。村山地方や置賜地方の人の間には、このような発想はない。
同じく納豆汁と言っても、それぞれの家の作法によって、中に入れる具も、味も、食感も微妙に異なる。さらさらとした納豆汁もあれば、割合粘りこいものもある。それは、それぞれの家族の好みであるから、どちらがよいということはできない。こんにゃくや人参を入れるという家があれば、わらびを入れないという家もある。
こうした違いはあるものの、納豆汁と言えば、まず入れるものは、納豆・いもがら・豆腐・わらび(塩漬け)・油揚げ・なめこ(びん詰めのもだし類でも可)・糸こんにゃく・長ねぎ・味噌である。
…「納豆汁は後のものほど味が良い」とも言うので、どこの家でも、これを作るときには、大鍋にたっぷり作る。
正月元旦にとろろを食べ、二日には納豆汁を食べる、というのが、最上地方の古くからの習わしである。”
(「 2 納豆汁」 p226-228 より抜粋)