“渡舟を預る人や川舟を操って漁をする人にとって、いちばん恐ろしいのは「ザイ」だ。これに当たったら舟などは一たまりもない。これは最上川の川べりの村ではよく耳にする言葉であるが、はて、これに漢字を当てるとすればどんな漢字かということになると、全くわからない。
「ザイ」(「ザエ」とも聞こえる)は、川に流れてくる氷や雪の塊を言うのであるが、今は、ごく一部の人しか口にしない。厳寒の節は、最上川の如き大河も一面に氷結することがあるし、大雪の折は、この上に雪が積もることもある。この現象はとくに、流れの比較的緩やかな中、下流部においてしばしばみられる。川面全体の氷結はそれほどではないが、岸に近い流れのところは、常と言ってよいほど氷が張る。
これが、少し気温が高くなったり、陽が照ったりすると、大小の塊となって流れ下る。流れる場合は、水面上に見える部分はごく一部で、水面下の部分が大部分であるから、この力は恐ろしい。船人が恐れるのはもっともである。…”
(「4ザイ」 p60 より抜粋) |